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005 未来の蓮くん、格好いいじゃない

last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-24 11:00:08

 二階建の古びた文化住宅。

 それが恋〈レン〉の初めて見た光景だった。

「……何て言ったらいいのかな。中々趣のある建物で」

 隣にあるコインランドリーの窓ガラスで、自分の姿を確認する。

 制服姿だった。

「ま、まあ、これはこれで……10年後の蓮〈れん〉くんへのご褒美ということで」

 そう言って苦笑いを浮かべる。

 その時、ミウの声が聞こえた。

「無事、到着したみたいだね」

「ミウ? よく分からないけど、ここが10年後の未来なんだよね。今とあんまり変わってない感じだけど、まあ10年ぐらいだったらこんな物なのかな」

「それもあるんだけど、説明してなかったね。ここでの恋ちゃんの目的は、あくまでも未来の君たちを見ること。だから恋ちゃんのいる時代になかった物とか、変わってる物。そういうのは自然と受け入れられるようにしてるんだ。例えば携帯電話とか、かなり変わってるよ。でも恋ちゃんは、それを当たり前に使うことが出来る。その方が、目的を果たす上でいいと思ったからね」

「そうなんだ。色々気を使ってくれてありがとね。それでミウ、今どこにいるの」

「僕のことは気にしないで。さっきも言った通り、僕はずっと恋ちゃんを見守っている。困ったことがあったらサポートもする。でも基本、恋ちゃんの前には現れないつもりだから」

「そうだったね。私ってば、もう忘れてたよ」

「あははっ。それと恋ちゃん、僕と話す時、声を出す必要はないからね」

「そうなの?」

「うん。僕の声、恋ちゃんの頭に直接響いてると思うんだ。恋ちゃんも僕と話す時、頭に思い浮かべるだけで大丈夫だから」

「……またすごいことを聞いたような……でも分かった。ミウがそう言うんならそうするね」

「ありがとう、恋ちゃん」

「それでミウ、ここはどこなのかな。私の街じゃなさそうだけど」

「蓮くんと会いたいって言ってたからね、一番早く会える場所に連れて来たんだ。ほら、そろそろ来るよ」

「え……」

 ミウにそう言われ、恋の胸の鼓動が早まってきた。

 蓮に会うのは、キスをしてから初めてだ。

 そう思うと、急に緊張してきた。

「……」

 細い一本道を歩いてくる男。

 恋の頭一つ分背の高いその男は、少し猫背気味で鞄を肩から下げていた。

 口元から時折息が漏れている。疲れている様子だった。

 彼は恋の姿を認めると立ち止まり、うつむき加減だった視線を恋に向けた。

「……久しぶり、だね」

「蓮くん……」

 両手を口に当て、頬を紅潮させた恋がそうつぶやいた。

 黒木蓮司〈くろき・れんじ〉。大好きな彼氏の、10年後の姿だった。

 * * *

「汚い所でごめんね」

 鉄製の階段を上り、二階の一番奥の部屋に。

 鍵を差し扉を開けた蓮司が、申し訳なさそうにそう言った。

「気は使わなくていいからね、遠慮せず入って」

「は、はい。ありがとうございます」

 いつも軽口をたたいてる幼馴染なのだが、今目の前にいる彼は、自分より10歳も年上なんだ。そう思うと、思わず敬語になってしまった。

 そんな恋に穏やかな笑みを向け、蓮司が靴を脱いで中に入っていく。

 古びた電灯にぶら下がっている紐を引っ張り、電気をつける。

「適当に座ってて」

 そう言うと蓮司は鞄を下ろし、台所に向かった。

「おじゃま……します」

 恐縮した面持ちでそう言うと、恋も中に入り、丸テーブルの前に腰を下ろした。

「麦茶でいいかな」

「は、はい、大丈夫です」

「ははっ。だから、そんなに緊張しなくていいよ。君から見ればおじさんなんだろうけど、僕らは幼馴染の間柄だろ? 普段通りにしてくれた方が嬉しいよ」

 台所から麦茶を持って来た蓮司が、グラスを差し出しそう言った。

「……ありがとうございます」

 蓮くん、10年経ったらこんなに大人っぽくなってるんだ。それに……こんな優しい笑顔を向けてくれるんだ。

 恋が照れくさそうにうなずき、グラスを受け取った。

「今の僕が呼び捨てで呼んじゃうと、少し乱暴な感じになってしまう。だから君のこと、恋ちゃんって呼んでいいかな」

「は、はい」

「恋ちゃんは10年前の過去からやってきた。そういうことでいいんだよね」

「はい、そうです。蓮くん……ごめんなさい、私も蓮くんのこと、蓮司さんって呼びますね。蓮司さんは今の状況、どこまで理解されてるんですか」

「仕事から帰ってる途中で、急に頭の中に色んな情報が入って来たんだ。中々面白い感覚だったよ。しかもそのことを拒絶出来ず、全部受け入れてしまう。精霊の力、思い知ったよ。

 君は10年前の恋ちゃんで、精霊の力でこの世界にやってきた。目的は、未来の僕たちがどうなってるかを見ること。

 そして恋ちゃんは、僕と花恋〈かれん〉にしか認識出来ない存在」

「はい、そういうことです。と言うか、花恋?」

 自分のことを花恋と呼ぶ蓮司に、恋は違和感を感じた。

「ああ、うん……大学に入ったぐらい、だったかな。名前で呼び合うようになったんだ」

「そうなんですか……」

 恋が少し残念そうな顔をした。

 お互いに「レン」と呼び合うの、結構気に入ってたのにな。そう思いながら、麦茶を口にする。

「でも、ははっ……何て言うか、自分たちがどうなってるかを見たくて、わざわざ時間旅行〈タイムトラベル〉してくる。やっぱり恋ちゃんは面白いね」

「そうでしょうか」

「うん、面白いと思う。そんな恋ちゃんだから、僕は好きになったんだと思う」

 そう言って微笑む蓮司に、恋は赤面してうつむいた。

「あ、あのその……蓮司さん、髪、切ったんですね」

「え? ああ、髪ね……就職活動の時にね」

 蓮は子供の頃から、ずっと長髪だった。肩に届くほどの長さで、耳が見えたことが一度もなかった。

 前髪も長く、よく恋から「そんなに前髪があったら、視力が落ちるよ」とからかわれていた。

 しかし今の蓮司は、両サイドが刈り込まれ、前髪も額が見えるほどに切り揃えられていた。

 長髪の蓮のことも好きだったが、髪型のおかげでどこか陰のある雰囲気があった。

 しかし今の蓮司を見ていると、覇気の無さは残ってるものの、恋をしっかり見つめる視線に力強ささえ感じられる。

「就職活動の時に」

「うん。でも全然うまくいかなくてね、大変だったよ」

「今のお仕事って、その」

「今は工場で働いているんだ」

「そうなんですか」

 意外な答えに、恋が驚きの声を上げた。

「うん。昔ながらの工場でね、夏は暑いし冬は寒いし大変だよ。ヘルメットもずっとかぶったままだし、まあそういう意味でも切っておいてよかったと思ってる」

「そうだったんですね……でもその髪型、いいと思います。その……男らしいって言うか、格好いいです」

「ははっ、高校時代の恋ちゃんに褒められるなんて、僕も嬉しいよ」

 小さく笑い麦茶を口にする蓮司。

 そんな蓮司を見る恋の中に、一つの疑問が生まれていた。

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